お披露目会



名旅館&一流ホテル 優雅な一泊二日の旅』特派記者報告(1)


1.宿泊先「かよう亭」

■もてなしの神髄を実感する宿
文・写真/赤松 京(生け花講師)

名旅館「かよう亭」に宿泊できるという特派記者に選ばれ、2月15日は心ときめいて主 人と一緒に山中温泉へと向かった。残雪に日差しがやわらかく降り注ぐ渓谷の山あいに、 静かな佇まいで「かよう亭」はあった。広い玄関を入るや、大きな大きな火鉢に赤々と炭 火が燃える客迎えに、まずは心がほぐれる。客室へと通じる回廊や、随所に置かれた洗練 されたデザインの椅子とテーブルが美的に空間を構成しており、降り注ぐ自然の光と木の ぬくもりに包み込まれて実に心地よい。“人間としての我が身に還る安息の場に”とのご 主人のメッセージが穏やかに伝わってくるようである。

優しく笑みを投げかけてくれる生け花は、春到来を告げる山の花たち。そして、湯船に 浸かると目の前には手つかずの自然の木々、山々が見渡せる贅沢さ。“春は曙 やうやう 白くなりゆく山ぎは少し明かりて紫立ちたる雪の…”と、出湯の中で感動を味わえる楽し さ。湯上がりに、かすかに哀調を帯びた山中節が聞こえてくるのも情緒あふれるものであ った。

1日10客ということで、雑音にわずらわされることもない静かな時間。加賀の地酒のす っきりとした味わいに酔いつつ、土地の伝統文化が息づく器に盛られた懐石料理に舌鼓を 打ち、刻はゆるやかに過ぎ、安らかな寛ぎに包まれる。朝食の滋味あふれる数々と心遣い が身にしみる。決して華美ではないが、すべて過剰なものを削ぎ落とした後のもてなしの 神髄を感じさせてくれた宿であった。ご主人自らもてなしてくださった自生ハーブティー の爽やかな香りと共に、忘れえぬ宿となるだろう。

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明るい光が差し込み、足裏にはい草の感触が心地よい回廊にて。



■一流宿の上質なおもてなし

文・写真/岩沢薫子(会社員)

1月末、美しい白山の雪山を眺めながら山中温泉の「かよう亭」に向かった。館内には 、ジョージ・ナカシマのモダンな椅子や骨董の焼き物などが置かれている。畳敷きの廊下 は、ひとりずつ渡される足袋で歩くことができ、奥ゆかしい宿のセンスが光る。

湯上がり後の夕食は、自家製またたび酒(果実酒)から始まった。次々と運ばれる料理 は正統派の懐石で、山中塗りの器との調和もすばらしい。メインは、宿オリジナルの“具 足煮”でいただく冬の味覚の代表格、蟹。白味噌のやさしい香りが染みている蟹の身は、 ふんわりとしていて、活きのよさが伝わってくる。その甘みは、新たな味の喜びを教えて くれる逸品だった。目を閉じ、「あー、おいしい!」とため息がもれる。久々に、料理の 味に心から感動した。翌朝出されたおめざの梅干しと紫蘇らっきょうも、実に上品で美味 だった。こういった細部へのこだわりが、一流と呼ばれるゆえんなのであろう。

1万坪に10室という贅沢な空間、程よく距離をおいたおもてなし、ご主人の個性が光る しつらえ、山海の幸たっぷりの料理…。すべてにおいて上質を備えている「かよう亭」は 、旅館にうるさい通の人でもきっと満足できることだろう。

出発の際、サッと出された靴にはカイロが入っていた。小雨の降る寒い日に、なんとも うれしい心配りである。荷物を置いて温泉街をしばらく散策したいというと「よかったら 番傘をお使いになりませんか?」と支配人。初めて手にする番傘をさして、足元の暖かさ を感じながら私たちは歩き出した。

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風情ある番傘をさして温泉街を散策。


2.宿泊先「はづ合掌」

■時間を気にせず、静寂に包まれる旅
文・写真/榊原敬子

私の旅はよく雨に降られるため、同行の友人はいつも折りたたみ傘を持ってきてくれる 。だが、今回の旅は、宿でのんびりと過ごすことが目的。天気も寒さも時間もなにも気に せず、ただ読みかけの本を持って出かけることにした。

訪れた日はまだ松の内で、玄関もホールもお正月のしつらいが施されていた。黒々とし た大きな柱、円錐形になっている天井、窓ガラス越しの渓谷の風景…など、これからおよ そ20時間を過ごすには最適な静けさに包まれた宿である。案内されたのは『二人静』とい うベッド付きの和洋室。梁の見える天井は高く、窓からは渓谷の流れが見え、まるでスイ スの山小屋のようだ。檜風呂で体を温めてから用意された作務衣に着替え、暖かい部屋で 川のせせらぎを聞きながら本を読んで過ごした。

夕食は、追加で湯葉を頼んだので、料理と合わせると二食分いただいたくらい満腹にな ってしまった。湯葉を自分ですくいあげる楽しさもあり、ワイワイ食べているうちに、ほ んの少しのお酒ですっかり酔ってしまった。夕食後、またたっぷりと読書を楽しみ、深夜 になってから露天風呂へと下りていった。木の間から見える星空に、しばらく寒さを忘れ て見とれてしまった。翌朝は、山の端から昇る朝日を見てみようと、早起きをして露天風 呂へと向かった。オレンジ色の太陽も小鳥のさえずりも、なにもかもがすがすがしい。

旅館ならではのきめ細かいもてなしとホテルならではの機能性。この両方の利点を併せ 持った宿で、2日間本当にくつろいで過ごすことができた。宿まで案内してくれたタクシ ーの運転手さんに、手づくりの山歩きマップをいただいた。夏には川で水遊びができ、蛍 が舞い、川魚も美味だという。夏休みにまた、青空の日を選んで訪れたい場所である。

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部屋のライティングデスクに腰掛けると、まるで小説家になったよう。



■ゲストを温かく包み込む偉大な宿
文・写真/山田幸代(会社員)

名古屋から電車で2時間。合掌造りの宿が出迎えてくれたのは「おかえりなさい」の言 葉と暖炉の薪の匂い、そして黒くて太い梁だ。その力強さと存在感は、決して他を圧倒す るものではなく、余りある包容力で息づいている。

半露天の檜風呂と名物の岩盤状の露天風呂では、ほのかな薬草の香りやピンと張り詰め た冷気がたまらなく気持ちいい。食事は、土地の素材をふんだんに使った京風懐石料理で 、味はもちろん、器からも、日本料理の技と粋、雅びが感じられた。部屋は、日本間と洋 間のたっぷりとした二間続きで、独立した別荘のようだ。家具、調度品すべてが合掌造り の部屋に調和して、完成度を高めている。

自然の中に身をゆだねる居心地のよさ、歴史の流れに抱かれる安心感。この宿は、挫折しそうにな ったときや葛藤の真っ只中にあるとき、また、人生の大きな節目を向かえたとき、さりげ なくそっと寄り添い、包んでくれるに違いない。

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大きな暖炉の前で、薪の匂いを感じながら。


3.宿泊先「陶湶御所坊」

■温かみに満ちた旅館の皆さんの笑顔
文・写真/丸尾知子(主婦)

宿を訪れると、まず入り口にレトロな黒い車。そして、玄関にある丸いコタツと火鉢が 私たちを出迎えてくれました。お茶の道具がガラスケースに並べられ客室は、懐かしい雰 囲気の温かみとモダンさとが融合した素敵な空間でした。

夕食は、きのこ鍋をメインに、山の幸が次々と並ぶ“山家点心”。生まれて初めて見る 黄金きのこや赤きのこにはビックリでしたが、歯ごたえがあり、とても美味でした。

宿を出発する際、旅館の皆さんひとりひとりが、7か月の娘に声をかけてくださり、本 当に温かい気持ちになりました。“訪れる人に安らぎを 去りゆく人には幸せを”。これ は、ドイツの温泉療養地、バーデンバーデンの城壁に刻まれている言葉ですが、見送って いただいた旅館の皆さんの笑顔の中に、そんな思いを見た気がします。

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家族3人、レトロモダンな玄関口で。



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■伝統とモダンを味わう贅沢なひととき
文・写真/吉良里美(会社員)

創業800年。「陶湶御所坊」は、その歴史ある木造建築に風情と品格を漂わせていた。 文豪、谷崎潤一郎ゆかりの宿としても知られ、この日私たちが宿泊した部屋は、小説『猫 と庄造と二人のをんな』が生まれた部屋だった。「よくここで頭を打たれたそうです」。 部屋の係の女性が話してくれた場所は、和室に続くサロン風の洋間との境。書棚には、谷 崎潤一郎の古い書籍が飾られ、私たちを日本文学の世界へと誘う。

洞窟のように、奥へと浴槽が広がっていくお風呂。薄明かりを頼りに、有馬特有のまっ たりとした赤茶色の湯に身を沈めると、時代がタイムスリップしたかのように今が遠く感 じた。また、淡くライトアップされたジャグジーでは、都心のスポーツクラブいるような 爽快感を味わった。このコントラストもまたうれしい。

夕食の前、あまりに充実しているワインリストの内容に困っていると、ソムリエの方が 丁寧に説明をしてくださった。選んだワインを少しずつ飲みながら、おいしい海の幸、山 の幸の懐石料理を口にする。私の顔も自然とほころび、主人との会話もはずんだ。  伝統とモダンの融合。その洗練されたしつらいの宿「陶湶御所坊」は、私たちにこ の上ない贅沢なひとときをもたらしてくれた。

※レポートは、できるだけ原文のまま掲載いたしておりますが、文字数の関係上、多少、割愛または補足させていただきました。

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日本文学の世界に酔いしれた1泊2日。

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アンティークの書棚には、谷崎潤一郎の作品がズラリ。


「樂」メイン



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