
2.宿泊先「はづ合掌」

■時間を気にせず、静寂に包まれる旅
文・写真/榊原敬子
私の旅はよく雨に降られるため、同行の友人はいつも折りたたみ傘を持ってきてくれる
。だが、今回の旅は、宿でのんびりと過ごすことが目的。天気も寒さも時間もなにも気に
せず、ただ読みかけの本を持って出かけることにした。
訪れた日はまだ松の内で、玄関もホールもお正月のしつらいが施されていた。黒々とし
た大きな柱、円錐形になっている天井、窓ガラス越しの渓谷の風景…など、これからおよ
そ20時間を過ごすには最適な静けさに包まれた宿である。案内されたのは『二人静』とい
うベッド付きの和洋室。梁の見える天井は高く、窓からは渓谷の流れが見え、まるでスイ
スの山小屋のようだ。檜風呂で体を温めてから用意された作務衣に着替え、暖かい部屋で
川のせせらぎを聞きながら本を読んで過ごした。
夕食は、追加で湯葉を頼んだので、料理と合わせると二食分いただいたくらい満腹にな
ってしまった。湯葉を自分ですくいあげる楽しさもあり、ワイワイ食べているうちに、ほ
んの少しのお酒ですっかり酔ってしまった。夕食後、またたっぷりと読書を楽しみ、深夜
になってから露天風呂へと下りていった。木の間から見える星空に、しばらく寒さを忘れ
て見とれてしまった。翌朝は、山の端から昇る朝日を見てみようと、早起きをして露天風
呂へと向かった。オレンジ色の太陽も小鳥のさえずりも、なにもかもがすがすがしい。
旅館ならではのきめ細かいもてなしとホテルならではの機能性。この両方の利点を併せ
持った宿で、2日間本当にくつろいで過ごすことができた。宿まで案内してくれたタクシ
ーの運転手さんに、手づくりの山歩きマップをいただいた。夏には川で水遊びができ、蛍
が舞い、川魚も美味だという。夏休みにまた、青空の日を選んで訪れたい場所である。
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