
■土地の恵みに触れる温もりの宿
文・写真/田中春江(主婦)
思わぬときの贈り物があり、遠い昔を思い起こしています。結婚間もないころ、夏の信州を訪れたことがありますが、年月を重ねた夫婦の旅に期待をふくらませ、長野新幹線「あさま」に乗り込みました。
千曲川沿いにある「上山田ホテル」へは、夕暮れ時に到着。残雪がより一層引き立てている庭を眺めながらロビーに入ると、まず目を奪われたのが、正面
の壁にあるわらで編まれた亀3匹。その下には、八手の葉に薄紫色の葉牡丹をのせ、睡蓮に見立てた粋な演出がほどこされています。
部屋に案内された後、早速、見晴らしのいい展望風呂へと向かいました。お湯は45度の源泉のみを使用しているため、効能が損なわれることはないとのこと。体の芯まで温まり、湯上がりのすべすべ肌に感動しました。また、深夜にも露天風呂へ。薄暗がりの湯気の向こうで流れる水の音に耳を澄ませ、物思いにふけながら、寒い時期だからこそ味わえる温泉の醍醐味を感じました。
夕食は、同じ敷地内にある「ラピス・ラズリ」というフレンチレストランへ。地元で採れたトマトやきのこ、菜の花などは美しく器に盛られ、華麗なフランス料理へと変身。鹿の肉は噛みしめる度に香ばしさが口に広がり、こだわりの手づくりパンも大変美味。フランスパン好きな私は3回もおかわりをしてしまいました。中でも、フォアグラのスープは絶品で、素材そのものの旨みがたっぷりと含まれた一品は、余韻が残る贅沢な味わいでした。
チェックアウト時は、女将、若女将ともに見送りに。上品さの中に粋きを感じる女将、そして素朴で飾らない若女将。人と人との出会いや温もりを大切にしていることが、自然とホテルの伝統となって受け継がれている気がしました。
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