お披露目会



九州新幹線「つばめ」に乗車し、南九州を楽しむ旅”特派記者報告(1)



■うぐいすの声で目覚める至福
小形悦子(新潟県長岡市)

初めて訪れてみる九州、三月十二日旅の始まり、私にとっては、温かで青空を期待していたのに雨とは、がっかり。でもこの雨は「島津雨」と言うそうな。良き人のために降る雨、吉兆の雨、又の機会という意味合いのこと、沈壽官氏の講演、心から伝わって来るお話しの数々、その中からの島津の雨で心の不満が消え去りました。

新潟にいては、この三月にはまだまだほど遠い、うぐいすの声で目覚め、しばらく耳を傾け心地よく和ませてもらい、友と旅の茶道具を広げ至福の一時、又いつの日か訪れてみたいものです。良き思い出をありがとうございました。

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「妙見 石原荘」内で記念にパチリ。
写真/小形悦子



■古代の色「朱華」を感じた旅
高橋圭子(新潟県長岡市)

この度の旅についての思いは沢山ありますが、帰ってからも心に残っているのは、石原荘で出会った色についてです。

「朱華」という文字に出会ったことです。私たちの泊めていただいた部屋が「朱華」という名前でした。どう読むのかさえわかりませんでした。意味などわかるはずがありませんでした。フロントで聞きましたら、「はねず」と教えていただきました。はじめて耳にする日本語であり、はじめて出会った色でした。七世紀頃にできた古代色らしいのです。宿の御主人らしき方が、奥の方から古代色名集のような随分と厚く何回となく御覧になったであろう、と思われる冊を持ってきて下さいました。あいにくと「朱華」なる色はそこの中には、なかった様子でした。

そんな風でしたので帰ってからもずっとどんな色味なのか気になっていました。ある本には、紅花染の黄味のない薄赤とありました。八重桜の花びらの色…でも少し違うようです。淡紅色、鴇羽色…。

「朱華」が、こんなにも気になるのは、石原荘の、そこかしこに漂う空気の上等さと、重なったからかもしれません。石原荘に美しい日本の色を見た思いでした。親切サービスを押し付けることもなく、自分達の存在を決してアピールせず、陰の様な、それでいて、すべてに完璧な立ち居振舞いのスタッフの皆様方。「これでもか…これでもか」という一方的な味自慢の様子もなく「熱いうちにどうぞ」と言う言葉だけが聞こえてきそうなもてなしでした。素晴しい料理の数でした。さらには、盛り付けられた料理をさらに上等にする美しい器の数々にも充分楽しませていただきました。古代の色「朱華」のような石原荘でした。末筆ながら和樂のスタッフの皆様にも、たいへん御世話になり、ありがとうございました

 




■島津雨に迎えられて

田中しのぶ(福岡県北九州市)

旅のおもしろさは、その土地との出会い、そして人との出会いにある。あいにくの小雨模様で迎えた初日。緊張した面 持ちで鹿児島空港に向かうと、それらしい集団が目に付いた。和服の入った大きな旅行鞄、同じ目的で集まってきた者はすぐにわかる。早速バスに乗り、嘉例川駅へ。ここは無人の駅である。私たち以外に人の姿はないが、開業式典の準備だろうか、万国旗とテント、並べられた折りたたみ椅子が雨に濡れていた。人影のない駅にほのぼのとしたあたたかさと、地元の人たちの気配を感じた。

「はやとの風」は黒塗りのレトロな外観を持つ列車である。まだ乗客を迎えていない客席は真新しい木の香りに包まれていた。レトロモダン。そんな言葉が当てはまる列車に揺られて次の目的地、天空の森に向かった。広大な敷地は全くのプライベート空間。見渡す限りの絶景にため息が漏れた。なんと贅沢な場所だろう。一通 りの部屋を回ってテーブルに着き、沈先生を待った。穏やかな笑顔の先生は開口一番、「ここでは雨は島津雨といって、吉兆なのですよ。良き人に出会うという意味があるのです」と言われた。あいにくの雨は歓迎のしるしに変わった。小雨降る霧島神宮は荘厳な雰囲気を醸し出し、宿の石原荘は隅々まで心配りが行き届いていた。

翌日はいよいよ着物を着てつばめに乗車。こちらも車内は木がふんだんに使われており、ゆったりとくつろげる三十数分であった。今回の旅は、着物を着てつばめに乗るという普段の旅とは一風変わったものであったが、人の賑わいから離れた場所で、人の気配と心遣いを感じ、あたたかい温もりに包まれていた。全国各地から集まった旅の同行者と行く先々での出会い。言葉通 り、島津雨に迎えられた旅は良き人に出会う心温まる旅となった。

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「特急はやとの風」内では“つばめ弁当”に舌鼓。包装紙もレトロでかわいいと大評判。
写真/田中しのぶ




■圧巻、着物美人が勢ぞろい

辰川律子(福岡県北九州市)

思いがけず当選した新幹線つばめ乗車。飛行機嫌いの友達の為、前日から鹿児島入り。旧つばめに乗り、北九州から5時間余りかけて鹿児島中央駅まで来ました。あいにくの雨模様、桜島も煙って姿を隠していました。

次の日、鹿児島空港集合、洋服を着ていても、着物が似合いそうな人ばかり、私もがんばるぞー。そのまま無人の嘉例川駅へ、とってもレトロな駅でした。そこへ入って来た「特急はやとの風」に乗り人吉まで、感動の連続。車窓は雨だったけど車内は歓声でいっぱい。すばらしい汽車の旅。九州には、こんなステキな、汽車がいっぱいあるんですね。又、違った季節に来たいな!車内で食べた『つばめ弁当』、これも又、ステキ。京風懐石風で味もおいしかった。次が天空の森。施設もすばらしかったし、沈壽官氏の講演も淡々とお話しになって、ふと別 の世界へ迷い込んだ様でした。

夜は、今日の宿、「妙見石原荘」、食事良し、サービス良し、おフロ良し。今日一日お姫様になった様。こんな贅沢させてもらって良いのって感じ。夜も寝るのが惜しくって、遅くまで眠れませんでした。明日の着物の用意は忘れませんでした。

次の日、いつもより早く目が覚め、今日のイベントの着物姿。同室のお友達もみんな自分の事で精一杯。みるみる、きれ~いになって行きます。20人の着物美人が、勢ぞろい。とっても圧巻です。鹿児島中央駅で新幹線つばめに乗り込みました。内装も和風でゆったりして、旅が楽しそうでした。・・・あっと言う間に八代着、八代駅横の菜の花が迎えてくれました。久しぶり、感動した旅行でした。この企画をしてくれた、和樂さんに感謝。JRさんに感謝。そして着物が好きな人いっぱい居るんだ。日本文化もすたれてないよ。良かった!

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「特急はやとの風」。黒塗りのレトロな外観が旅情たっぷり。
写真/辰川律子


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「天空の森」の「天空リビング」と名づけられた、最新施設。絶景を独り占めできる温泉に思わず興奮。着物姿で失礼します!
写真/辰川律子



■旅の思い出
各務久美子(愛知県名古屋市)

今回はすばらしい二日間の旅をありがとうございました。生まれてはじめての九州で夢の様な体験をできたことを感謝しております。私の念願であった薩摩焼を尋ねる旅は、作品を見ることはできませんでしたが、沈壽官先生のお話を聞くことにより十二分に目的を達成できたと思います。400年も昔に異国の地より日本につれてこられた陶工たちが苛酷な環境の中で生み出し、またそれを永きにわたり絶えることなく受け継いできた多くの人々の力によって今日の薩摩焼があることを再確認しました。

沈先生のお話の中にあった、あるがまま自然に逆らうことなくすべてを受け入れて生かしていく植物的な生き方、自ら運命を切り開き、流れに逆らってでも己が主張を貫き通 す動物的な生き方、この二つの生き方の中で植物的な生き方を余技なくされた沈家の人々は、焼き物の中で静かに自らを主張し続けてこられたのだと思いました。やさしく暖かく、ただ大らかで寛大な中に絶対的な自信と確固たる信念を持った作風に引かれました。

最後に今も心に残ることは「『じいちゃんぼくも茶碗屋になるよ』と孫がいってくれました」と相好をくずしておっしゃった、とろけそうなやさしい先生の瞳と、「年をとるってどんなこと?」とお孫さんに問われて答えられた「年をとることはいたいことだよ」という言葉です。何十年も土をこねて手の指の節は曲がり、年をとると共にいたみが増していく中で作品を作り続けてこられた真摯な姿勢にはただ感じ入るのみです。また握手していただいたその手がなんともやわらかく暖かであったことか、これらの思い出はわたしにとって一生忘れることのできぬ ものとなりそうです

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開業記念イベントに参加してくださった沈壽官さんと記念撮影。
写真/各務久美子


■島津雨に思いを馳せて
山本和子(千葉県千葉市)

三月十二日、鹿児島は静かな雨が一日中降りしきっており、「冷えますね」と言った口から白い息が漏れた。  しかし、「天空の森」で陶芸家の沈壽官先生の講演を拝聴したとき、一筋の光が差した。私の心の中に。話の中で素敵な言葉と出会ったのだ。その言葉とは「島津雨」。鹿児島では出立や祝事のときに降る雨は、縁起の良いものとしているという。そう聞いて、今まで見てきた景色が風情あるものとして蘇った。人の姿のない広大な田んぼ、濃緑の木々。その後訪れた「霧島神宮」に足を踏み入れると深い霧に覆われた峰から神があらわれてくるように思えた。

翌日は、桜島の噴煙が見えるほどよく晴れた。今回の旅のメインイベントである新幹線「つばめ」の乗車には特別 な思いで臨んでいた。三年前に亡くなった実母の着物を身に付け、母の故郷である鹿児島からの出立であったから。ゆっくりとホームに滑るつばめの登場に、歓声を挙げ拍手した。車内は清潔でほんのりと木の香が漂うようだった。母と共に列車を楽しんでいる気持ちだった。この旅で大変お世話になった和樂編集部スタッフ、JR九州の方々、そしてご一緒出来た参加者の皆様に深く御礼申し上げます。九州、良いとこ、また来たい。



※レポートは、できるだけ原文のまま掲載いたしておりますが、文字数の関係上、多少、割愛または補足させていただきました。

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2日目は快晴。鹿児島中央駅までは「特急きりしま」で移動。雄大な桜島の姿に特派記者も感動!



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