お披露目会



九州新幹線「つばめ」に乗車し、南九州を楽しむ旅”特派記者報告(2)



■“出会い”の素晴らしさを感じた旅
矢崎裕加子(東京都新宿区)

「島津雨というのです」沈壽官氏の笑顔の登場とともに、一気に緊張がほぐれた。雨で残念という思いも払拭された。いい出会いの折に降る雨。出会いの喜びのつまったこの旅の象徴のようだった。

旅の始まりは嘉例川駅。雨に緑が煙り、鮮やかさとは対照的に静かに黒々とおちついたホームだった。絵の中に居るようで、ここで電車を待っていることをすっかり忘れていた。列車が入ってきた時、絵本が突然動き出したかのような錯覚に戸惑った。慌てて現実に戻り一歩列車に踏み入れた途端、再び絵の世界に引き戻され嬉しくなった。木の新しい匂いと明るい寛いだ空間。外の景色も多様だ。トンネルの暗闇が切れる度に新たな木々の景色が広がる。スイッチバックで山を登るときは、のんびり停車したかと思うと、あっという間に幸せの鐘を叩いたホームも遠のいていくのに驚いた。開通 を待ちわびてカメラを向ける鉄道ファンの熱気に負けない位楽しんだ。

沈氏の笑顔はとても親しみやすい優しさと明るさで輝いており、天空の森に舞い降りた仙人のような気がした。深く、よく響くお声、口調に引き込まれるように話を聴いた。自らを茶碗屋と呼び、植物の生き方(根付いた地で強く伸びる)を選び受け入れ、更に次世代へ生き続ける事・・・を暖かく淡々と語って下さった。400年の歴史の苦難と悟りの生き方に感激した。

翌日、沈氏は黒のおしゃれな鍔広帽子で颯爽としていらした。帽子を指しながら「オーストラリアで買いました。あれも被ってます」と沈氏の示した先には同じ帽子のお孫さん達が立っていた。自慢のおじいちゃんを見つめ、新幹線にワクワクしている様だ。私は前日の話を思い出していた。孫の問いに“年を取る=痛いこと”と語った事、火加減を薪を持って見守る孫達の姿。沈氏はホームでお孫さんと話す時も昨日の深い口調を崩していなかった。常にまっすぐ生きるお姿に再び感動した。景色と人と最高の出会いの旅だった

 

写真
「天空の森」で講演する沈壽官さん。まるで映画を観ているように情景が心に浮かぶ、素晴らしいお話に涙する記者の姿も。



■「南九州を楽しむ旅」に参加して

矢崎克子(東京都新宿区)

入念な御準備の下での二日間。何げなく、しかし隅々にまで行き届いた気配りのスタッフの皆々様。そのお心のおかげで、初対面 で集まったその時から、安心して皆様の輪の中で貴重な日々を過ごさせて頂いた。歓迎の島津雨に迎えられて、温もりのある営みが蘇って来るかの様な歴史ある素朴な駅から、旅はいざ出発。

絵本の中に入ったかしら、と思える美しい風景が雨に煙り広がっている。忘れかけていた、人として本来の大切な気持ちが呼び醒まされていく思いだった。正に忘れ里、雲の上の別 世界の天空の森。是非お会いしたかった沈壽官さんをお待ちする。穏やかな笑顔で、お出ましされた先生のお姿を拝見した私は、氷の様な緊張の心がさーっと暖かさに包まれ春の日向ぼっこの中に居る様だった。胸の中には、苦しさ、辛さの方が多かったであろう400年の歴史をしっかり背負いつつ、現在、未来を確かな目で見て、考えて、歩んで居られる。そのお人柄とお話から深い豊かな感銘を賜った。

心のこもったお宿のもてなしが一層私たちを和やかに親しくさせてくれた。うぐいすの声と共に目覚め、明るい青空の中、着物姿に変身して二日間が動き出す。新幹線開通 の喜びに満ちた鹿児島中央駅。お孫さんと一緒で、優しいお祖父様姿を見せて下さりつつの沈壽官さんと再びお会い出来て嬉しさは百倍。

新幹線に伴いローカル線もリニューアル。乗せて頂いた各列車から、郷土を想い、郷土の良さを活かそうという心意気が伝わって大変心地良かった。木・竹・織・井草の枝等々が生かされている。人々の息遣いが感じられる列車に初めて乗った。何日間も過した様に思える程に充実した二日間だった。集まった友人スタッフの方々。まさに茶道で目指している人の道。これが実際に活き活きと感じられ、生きていた素晴らしい一期一会の旅をさせて頂いた。心の学びをさせて頂き、清々しい感謝の余韻にひたっている。有難うございました。

写真
鹿児島中央駅ホームで「つばめ」を待つ記者。開通 の喜びに満ちたホームで、華やかな着物姿は注目の的。



■着物、九州、電車の旅

横田裕子(岡山県岡山市)

「和樂から当選の電話があったから、早く帰っておいで」この旦那の電話から、「南九州を楽しむ旅」が始まりました。普段はすごい確率で晴れ女の私ですが、当日は雨降りでした。既に集合場所には、どことなくすごそうな人ばかりで、不安になりましたが、バスに乗ってしまうとすぐに楽しい旅へとなりました。隣の席になった方と話がはずみ、「ほんと、参加できてよかった」

今回の旅で一番心惹かれたのは、「着物を着て」ということです。誰でも一度は行ってみたい(多分一度も行けない)天空の森、その天空の森で薩摩焼の沈壽官さんの講演、宮司さんの案内で参拝する霧島神宮、そしてなによりも九州新幹線つばめに、開業当日に乗車するという盛りだくさんの旅行です。これに大好きな着物で参加できるという、本当にたまりませんでした。

つばめについては勿論ですが、薩摩焼についても、何か沈さんに質問できたらいいなあと思い、色々本を読みました。しかし、沈さんの講演はそんな歴史がどうしたという、本に書かれていることとは全く違っていました。祖先の方々は、どんな思いでこの日本へ連れて来られたのか、そして今なおこの地で、代々薩摩焼を焼き続けるには、という大変な思いを話してくださいました。涙が止まりませんでした。これは薩摩焼に限ったことではないでしょう。日本に連れてこられた、多くの陶工達の思いを胸に、これからは作品を感じたいと思いました。

たった一泊二日の旅行でした。初めてお会いする方ばかりの旅行でしたが、「着物が好き」というみなさんの思いが、この旅行にはいっぱい詰まっていました。和樂編集部の皆様、そしてなによりもJR九州の皆様、ありがとうございました。そしてまた是非、こんなすばらしい企画をよろしくお願いします。

写真
「天空リビング」をじっくり見学。「一度は来てみたい、憧れの場所!」と皆さんため息…。



■五感で魅了され通しの旅
田村美和(静岡県浜松市)

<一日目(雨)>
鹿児島着、島津の雨が私たちを迎える。歓迎の意味があるとのこと。一人旅は初めてで、知らない人の中での旅行は少々緊張する。「はやとの風」に乗車するため、嘉例川駅へ。100年間多くの旅人を見守ってきた駅であり、人を包み込む優しさを感じる「はやとの風」到着。黒い列車と聞いていたので、SL風の観光列車かと思えば、中に入ったとたん、「うわぁー」と感激の声が出てしまう。こんな素敵な列車は初めて。きらびやかではないけれど、照明の使い方が上品で、車内は明るく、木のあたたかい温もりを感じ、これから始まる旅がどんな素晴らしいものなのか、期待が高まる。

人吉駅から「天空の森」へ。以前、旅行雑誌で、見たことがあり、私の行きたい場所NO.1になっているところ。ここでは貴重な沈壽官氏のお話を聞く。先生のお話はユーモアがあり、また、人間が造った境界線に苦渋した話では涙したりと、あっという間に時間がすぎてしまう程聞き入ってしまう。いろいろな経験をされてきた人は、他人に優しいというが、先生の心の広さや優しさがお話に出ており、人間的にとても奥が深く、素晴らしい人だと感じた。又笑顔が素敵で、とてもチャーミングな人だった。次は霧島神宮、島津の雨が霧島神宮をより神秘的に美しく見せていた。

<二日目(晴)>
着物を着て、まず、竹で囲まれた「隼人駅」着。列車から、桜島を見ながら鹿児島中央駅へ。静岡県民の私は富士山が一番だと思っていたが、桜島も男性的で雄大な美しさがあり、なかなかのもの。「九州新幹線つばめ」に乗り込み、これが新幹線なのかと思う。ビジネスマンだらけの早さを求める、新幹線とは違い、風土を生かし、桜の木を使用した、椅子、井草を用いたブラインド。個人スペースが広く取られており、安らぎの空間となっている。外国人にもとても好まれる列車だと思う。乗心地がよいので、熊本駅までは短く感じた。ホテルで朝食を取り、旅は終焉へと。

今回の旅を通して、九州は日本の素晴らしさを一番理解しており、大事にしていかなければという思いが強い土地ではないかと感じた。日本人の私の五感に感じる、魅了され通 しの旅でした。

写真
初日に訪れた霧島神宮。島津雨に濡れる姿も神秘的。



■待合室
田宮敏子(三重県桑名市)

それは一本の電話から始まりました。「和樂」の編集部から「南九州を楽しむ旅」に当選したとの事。娘以外内緒で応募したので、電話で応対した夫は理解不可能でしどろもどろだったと思います。息子曰く、「今年の付きを使い果 たしたね」と言われながら天に昇る気持ちで鹿児島空港に着きました。集合場所には元ミス○○では?と思う綺麗な淑女ばかりで私達親子は場違いのようでそのまま引き返したい気持ちでした。

予報どおりの小雨の中、空港からまず嘉例川駅に到着しました。百年の時を経た木造の駅は山あいの木々に囲まれ、人っ子一人いない駅前には満開の梅が咲き、明日新幹線「つばめ」と共に観光列車としてデビューする「はやとの風」の開業式典のために、テントが早々と用意されていました。無人の駅舎に入り薄暗い待合室の木の椅子に座り、一日早く試乗の「はやとの風」を待っている時、三十年程前の事を思い出しました。

その頃私は短大で、ユースホステル部に所属していました。東京五反田に住んでいた私は、次の列車に乗り継ぐため一時間近く待たされるなど考えられませんでした。北海道や山陰のSL列車に乗りたくて、閑散とした待合室で友としりとりや手相で生命線を見せ合い、たわい無く時間を潰していました。その時必ず土地の人から話かけられました。「どこからおいでなさったね」と土地の訛で語尾がやわらかく話し始め、名所・名産・家庭などあっという間に時が過ぎていきました。その土地の出会いが旅の記憶に大切に残っています。

今回の旅行で編集部の方には出発前からさまざまな心労があったと思います。けれども私には、あの空港での帰りたい気持ちも、編集部の方の気さくで和やかな話し方にリラックスして打ち解けることができました。二十名の方と出会い、私にとって鹿児島が思い出の地になったことは、言う迄もありません。

写真
初日、「嘉例川駅」で特派記者全員そろって初めての集合写 真。


■九州の列車
田宮宣子(三重県桑名市)

今回の旅では、列車に何回も乗った。

<はやての風>
外見はシックな色合いで、黒のボディ、銀河鉄道999のように見え、汽車を思い出させる。内装は、木目調の色合いで統一されている。一般 的な特急列車は車両に2人掛けの椅子が整列しているが、この車両は共有スペースがあった。旅のワンシーンを作ってくれる。

<KIRISHIMA>
外装は鮮やかな緑のボディ。中は凝っているわけではなく、2人掛けの椅子が整列していて、シンプルだった。見える景色は山々が多く、途中で海も見ることができる。列車が止まる駅には人が少なくて、のんびりした時間を過ごせる。

<つばめ>
外装は、他の新幹線、ひかりやこだまと大差はなく、白のボディ。つばめという文字や絵が乗車口近くにあり、目に留まる。内装は入ってすぐに、他の新幹線との違いを気付かされる。目の前に見えるドアの形、床の色、壁に掛けられている絵画、それもつばめに合うようなものが選ばれている。座席のソファの色が落ち着いていて、段階に分けられているソファが身体にフィットするように作られていた。とても乗り心地がよかった。

<リレーつばめ>
外装はシックなダークグレーのボディ。夜行列車のようだ。内装も地下鉄のような独自の雰囲気がある。私たちが昼間に乗ったにも関わらず。それを感じさせないところが凄かった。

これ以外にも九州にはたくさんの列車があるという。列車、それは移動手段であり、どんな外装なのか、どんな作りなのかを気に留めている人は少ないが、乗り心地を気にしている人は多いのではないか。古来、列車は人やものを移動させる手段でしかなく、外装や内装を凝る必要はなかった。しかし、今は、車社会で列車が不便だと言われているからか、その不便さのイメージを変える必要があるのだろう。九州の列車は、外装、内装共に凝っていて乗る価値があると感じた旅であった



※レポートは、できるだけ原文のまま掲載いたしておりますが、文字数の関係上、多少、割愛または補足させていただきました。

写真
新幹線「つばめ」車内では、それぞれに記念撮影を。両手に花(?)なのはこの旅に同行してくださった白一点、JR九州の加藤さん。



「樂」メイン



Copyright(C) Shogakukan Inc. 2001 Copyright(C) 小学館
All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
掲載の記事・写真・イラスト等のすべてのコンテンツの無断複写・転載を禁じます。