お披露目会



「金塚晴子さんと金沢“和菓子ざんまい”の旅」特派記者報告(2)

■“手のひら”で感じる旅

文・イラスト/八木寧子(フリーライタ-)

萌葱(もえぎ)、若草、孔雀緑(くじゃくみどり)、若竹、青竹、深緑。五月の金沢は、すがすがしい新緑のあやなす錦をあたり一面 にひろげたようでした。それだけではなく、空は抜けるような青一色で、浅野川の清流には墨色の濃い魚影が映り、卯辰山(うだつやま)の麓にわずかに咲き残った花菖蒲は紫の点々となって心にとどまりました。あの、日本海沿岸特有のどんよりとした鈍色の気配はどこにもなく、私の金沢滞在は、しっとりとあでやかな色彩 に包まれた至福の時となりました。

“和菓子ざんまい”と題された旅から戻った私の生活には、いくつかの変化が訪れました。まず何より、和菓子が少し身近になったこと。それまで、和菓子をいただくときには居住まいを正さなければいけないように感じていましたが、“もっと和菓子を日常に”という「福文」のご主人のお話や、“和菓子づくりは難しいものではなくて楽しいもの”という金塚晴子さんの言葉を思い出し、くつろいだ気持ちでいただけるようになりました。

それから、和菓子の繊細な色やかたち、銘の奥に広がる豊かな世界に敏感になったこと。とくに、いただく前に和菓子を手のひらの上にのせて四方から眺め、その重みを手に受けながら、そこに凝縮された作り手の思いをからだ全体で感じ、それからゆっくりと舌で味わうという幸福な“作法”を体得したことは、今回の旅の大きな収穫です。

和菓子をいただくときに一番大切なのは、いただく私自身の心のもち方なのだと気づきました。本好きの人が、とっておきの時間と場所を見つけて幸せな読書にひたるように、好きな和菓子を選んでお気に入りのお茶をいれ、心穏やかにおいしくいただけば、普段着だって構わないのではないでしょうか。

紫陽花、唐衣、青梅(あおうめ)、菖蒲(しょうぶ)…。手のひらに和菓子をのせて眼を閉じると、まぶたの裏に旅の景色がよみがえります。和菓子は、心の贅沢。旅もまた、然り。金沢の旅は、私に“手のひら”で感じる豊さを教えてくれたような気がします。

※レポートは、できるだけ原文のまま掲載いたしておりますが、文字数の関係上、多少、割愛または補足させていただきました。



写真

写真

写真

写真


「樂」メイン



Copyright(C) Shogakukan Inc. 2001 Copyright(C) 小学館
All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
掲載の記事・写真・イラスト等のすべてのコンテンツの無断複写・転載を禁じます。