「金塚晴子さんと金沢“和菓子ざんまい”の旅」特派記者報告(3)
■本当の“こだわり”とは
文・写真/田嶋弥生(フェルト作家)
“こだわり”を感じた旅でした。壽屋さんの素材へのあくなき探究心、かよう亭ご主人のお客をもてなす心、福文さんの季節をとらえる目。その道に長く精進を重ねてきた方々のこだわりがそこにはありました。そして何より、ご同行いただいた金塚晴子先生の、折に触れて発せられる言葉からも同じ姿勢を垣間見ることができました。
特に、かよう亭さんの「賓至如帰(賓至りて帰るが如し)」という心が強く印象に残っています。訪れた客が、まさしく我が家に帰ったようにゆったりとくつろいだ気持ちになれる宿という意味のこの言葉は、ご主人が宿をつくられた当初より胸に秘めておられたということ。いろいろな施設が併設されていること、さまざまなサービスを受けられること、何より便利であることをうたい文句としている宿やホテルが多い中、かよう亭さんの「自然と温泉のほかはなにもない」という姿勢はとても潔く新鮮でした。「なにもないことが、いかに人に安らぎを与えるか、訪れたお客さまは知ることになる」という言葉どおり、さまざまな音や映像に慣れた五感は、最初はおそるおそる、でも次第にゆるゆると広がり、いつしか何もしない贅沢にすっかりリラックスしていたのです。
時代の流れにただ乗るのではなく、ものごとの基本にたちかえり、徹底して見つなおし、自分の目指すものは何か、お客様の求めているものは何なのかを追求していく姿勢は、かよう亭さんだけに限らず、今回訪れたどのお店にも貫かれていました。このことは、モノ作りを職業とする私にとって大きな驚きであり、いま一度自分の考えをみつめなおす良いきっかけとなりました。
こうした出会いは、なかなか求めて得られるものではありません。ふだんと同じように旅をしていたら、きっと気づかずに通
り過ごしていたことでしょう。このようなよい出会い、体験をさせていただく機会を作ってくださった和樂編集部のみなさまに感謝いたしております。ありがとうございました。
※レポートは、できるだけ原文のまま掲載いたしておりますが、文字数の関係上、多少、割愛または補足させていただきました。
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