お披露目会



「金塚晴子さんと金沢“和菓子ざんまい”の旅」特派記者報告(4)

■忘れられない和菓子「水蛍」

横山照光(主婦)

ある日、近所の書店でふと手にとった本の中に、とても優しい色をした温かい感じの和菓子たちを見つけました。そこには、わらび餅やおはぎ、季節を表した練りきりやきんとんなどが並んでいました。
“こんなに可愛らしい和菓子が家でつくれるなんて…。是非つくってみたい!!”このときが私と金塚晴子先生の和菓子の世界との出会いでした。こんな私にとって、今回の旅の企画は願ってもない機会だったのです。

当日、少し緊張気味に集合場所の金沢「壽屋」に向かいました。しかし、この旅は皆がひとり参加。しかも同じ“和菓子”というテーマに興味をもった者どうし。だからこそ、かえって自由に皆さんと交流することができたように思います。「壽屋」の明治に遡ったような空間で、丁寧につくられたお料理を前に、最初の不安はどこへやら、話に花が咲きます。その後も金塚先生とご一緒に、和やかな雰囲気の中、笑いの絶えない時間を過ごしました。昔の風情の中に新しさをも感じさせる東茶屋街、老舗の風格ただよう「壽屋」、自然に囲まれた静寂とゆったりくつろげる空間は噂に違わぬ 銘旅館「かよう亭」。その全てにおいて和菓子を味わいつくした、まさに“和菓子ざんまい”の旅でした。

中でも忘れられないのは、金塚先生と「福文」のご主人との歓談のひとときと、そのときいただいた「水蛍」という和菓子。素人には、求肥に見えた皮は、実は葛を蒸さずに練ってつくったもの。黒砂糖入りのあんとの間には、大納言小豆と金箔で表された蛍が…。その洗練された姿と美味しさに、しばし言葉を失いました。お土産としていただいた和菓子も期待をはるかに越えた品でした。

日頃、『和樂』と大好きな和菓子をとおして、和の世界の奥深さを感じている私ですが、今回の旅は、短くも全てに“本物”を体験できた中身の濃い素晴らしい旅となりました。



■金沢で感じた「色」
佐藤真理子(主婦)

風薫る5月。和菓子ざんまいの旅。かつての栄華が今でも色濃く残る街、金沢。旅の始まりは、大正10年から3代続く精進料理の老舗「壽屋」からでした。

憧れの金塚晴子先生と、全国から集まった和菓子好き25名とが集った昼食は、「壽屋」の2階。2階に案内されて、まず目に飛び込んできたのは、美しい群青の壁。青には、心を落ち着かせる効果 があるといわれ、精進料理をいただく演出といては、最適なのでしょうか。精進料理は、肉魚を一切使わず、野菜豆芋を上手く調理していて、まるで和菓子と素材は一緒。特に、加賀蓮根は、すりおろすととても強い粘りのために、一切つなぎを使わず練れるのが特徴で、機会があれば一度現物を見たいと思いました。食後は、あんがほんのりピンク色に染まった「吉はし」の葛菓子。上品な甘さの一品でした。そして、東茶屋街の旧遊廓の一室は、うってかわって赤い壁。赤は、店の回転をよくする色だそうです。この色の対比は、強烈に脳裏に焼きつきました。

宿の「かよう亭」では、宿まるごと貸しきりという優雅な気分を味わえたことや、この時代にお部屋に鍵をかけないという驚きに、老舗たるゆえん、お客様との信頼関係でなりたっている宿を誇らしく感じました。食後、藩政時代から続く「福文」6代目当主と金塚先生による和菓子の歴史や素材、あんに適した豆芋の話に加え、朝3時に葛を練ってこしらえてくださった葛菓子「水蛍」は、大納言と金箔で、蛍とその光を表現したさまには目を見張りました。

歓談後、お2人に和菓子を左右する砂糖について伺いました。すると、「上白糖、和三盆、黒糖など素材をいかし引き出す甘味を使い分けていくとよいでしょう。でも水飴が入ると…(福さんは笑みを浮かべて)それは麻薬ですよ」といった言葉に驚きました。のれんを守って語り継がれた加賀の和菓子の味。その味を堪能できた喜びと共感できた仲間。本当に楽しい旅でした。



■大杉に想いをはせて
村上美智代(コーディネーター)

1日目。
金沢の「壽屋」。江戸から平成まで時を重ねたような建築物と、斬新なアイデア一杯の精進料理に、気分は上々でスタート! 宿泊先の「かよう亭」の畳廊下の気持ち良さは筆舌に尽くし難く、食後の和菓子歓談では「福文」のご主人のお話から“本物”を感じることができました。「小豆は、同じ畑で7年作れないが、北海道は5年サイクルで作れるうえ、虫がつかない」など、和菓子はまずは素材選びからということでしたが、情報をもたない自分にとって、和菓子の奥深さにただただびっくり…。歓談時いただいた葛菓子「水蛍」も、今回はお2人のお話を聞いた後だったので、まずはくずとあんを別 々にいただき、それから残りをいただいたみました。「福文さんには口中調味が何よりある!」と五木寛之さんも言われたそうですが、その言葉を実感。金塚先生がおっしゃったように、和菓子も取り寄せるのではなく、その土地へ食べにくるものだと痛感しました。

2日目。
すっかり意気投合した「かよう亭」での同室“清流チーム”は、解散後、山中温泉散策へ。「お散歩号」という無料観光バスに仲良く乗り込みました。地元のボランティアガイドのおばちゃんの、小気味よいお喋りで、心がついつい踊ってきます。鶴仙渓では、こおろぎ橋、あやとりはし、黒谷橋といった趣きある橋めぐりと、豊かな緑を楽しみました。また、樹齢2300年の天をも貫くような天覧の大杉! 時とか生命とかいう概念がふっとんだ瞬間でした。長い間、ずっとそこに生き続け、山中温泉の歴史を見てきた樹…。とても神秘的な気持ちに。大杉に触れながら、「和菓子職人をはじめ、さまざまな人が、いろんな想いを抱いてここに来たんだろうな…」と想像はつきない2日目でした。




■最大のご馳走は…
大橋まゆみ(主婦)

まるでミステリートリップのような気分で「サンダーバード」に乗り込む。日常生活から解き放たれたウエスト太めの雷鳥は、集合場所金沢「壽屋」の玄関に降り立った。江戸時代末期の広間にずらりと並んだ朱塗りのお膳を前に、25名の自己紹介を糸口にして謎は解け出す。

憧れの金塚先生とともに数々の心をお手間のかかった精進料理、薄紅色の「吉はし」の和菓子をいただく。東茶屋街では、柳の木が情緒豊かに風に揺れる中、「志摩」という旧遊廓をのぞく。2階の客間と欄干に江戸時代の高級社交場の風情が色濃く残る。

そして山中温泉「かよう亭」へ。手入れのいきとどいた植木に囲まれた1万坪の庭に、たった10室という贅沢さに感激する。館内に飾られた凛とした茶花や、ご主人の趣味で集められた置き物に目を奪われ、青葉を辺り一面 にして美肌の湯に身をしずめるとき、心も肌もしっとりと癒される。大聖寺川沿いの鶴仙渓から運ばれる湿気が心を落ち着かせる。山菜を贅沢に使った夕食に舌鼓をうち、食後は場所をサロンにかえて金塚先生と「福文」のご主人との和菓子歓談。ここ加賀でしか味わえない和菓子「水蛍」にうっとりし、和菓子の奥深いお話に酔いしれる。

昨日まで全く面識のない同室の3人が瞬時に打ち解けたのは、『和樂』という媒体を介して、どこか安心できる感性を各人が探し当てたからかもしれない。夜更けまで話し込み、それぞれの生き方に共鳴したり驚いたり…。翌朝、“日本一”といわれる朝食の膳をいただき、別 れの時が迫る。お土産に「福文」の和菓子で旅もそろそろ幕引き。

最大のご馳走は、これからもよき話し相手となってくれる“良き友”を得たことだろう。

※レポートは、できるだけ原文のまま掲載いたしておりますが、文字数の関係上、多少、割愛または補足させていただきました。

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集合場所となった金沢尾張町の「壽屋」。江戸末期の町家の面 影を残す店構え。




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シンプルな精進料理を引き立てるのは、格式ある朱の漆器。




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緊張もほぐれ、部屋割り表を見ながら、簡単に自己紹介をする皆さん。




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金沢でしか味わえない「吉はし」の「狩衣」。淡いピンクが可憐。




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東茶屋街にて。憧れの金塚さんとパチリ!
写真/村上美智代




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栢野大杉(かやのおおすぎ)は
樹齢2300年! 向かいの「栢野
大杉茶屋」の「草だんご」はおす
すめの1品。
写真/佐藤真理子



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「かよう亭」のお部屋。すべての部屋から緑が臨める贅沢さ。




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夕食時、各テーブルをまわってくださった金塚さん。聞きたいことは山ほどあって…。


「樂」メイン



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