お披露目会



「金塚晴子さんと金沢“和菓子ざんまい”の旅」特派記者報告(5)

■和菓子にみる日本の“美”

諸岡真理子(会社員)

この旅で一番印象深かったのは、金塚さんと「福文」のご主人とのお話をききながら、和菓子「水蛍」をいただいた時だった。洋菓子とは違って派手さはないが、作り手の細やかな心配りや感性を感じることができるのが和菓子の魅力なのだと実感した。

ここ最近になって洋菓子より和菓子を食することが多くなり、あんの味の違いがなんとなくわかってきたつもりでいたが、実際つくった方のお話をききながら和菓子を味わえることはそうあるものではない。金塚さんと、「福文」のご主人をひとめ見たとき、なんて温かい雰囲気をもった方なんだろうと思った。和菓子の優しい味は、同時に作り手の思いをいただいているような気がして、大切に大切にひと口ずつ味わった。こんなに丁寧に味わうことなんて今までなかったくらいに…。

和菓子はシンプルゆえ、作り手の思いや人柄もそのまま“味”となる。その思いをいただく私も、感性を磨いておけばたくさんの発見ができる。お土産の和菓子もとても品がよく得した気分。薄紫色の和菓子の中身はなんとみどり色! 紫とみどりの配色の美しさに、着物の裏地や重ねの色など、隠れたところこそ凝るという日本の美意識を思い出した。「福文」のご主人は日々の暮らしの中で発見した美や、ドラマティックなしかけを目にした時の驚きなどを、ひとつひとつ和菓子に反映させるのだろう。

今回の旅できいた和菓子の話と味は、和菓子だけでなく、日本の“美”について、ますます興味を抱くことになったきっかけとなった。



■これぞ一流、さすがプロ
鍋田友香(会社員)

私が旅をするときにテーマにするのは“おいしい食べ物、人との出会い、素敵な景色”。今回の旅は、この3つをすべて満たした素晴らしい旅となりました。この旅全体の印象を一言でまとめるなら、“これぞ一流、さすがプロ”という感じでしょうか。

金塚晴子さんと「福文」のご主人との対談では、おふたりの和菓子に対する静かだけれどとても強い信念を感じました。昔から、ごまかしのない本当のものをつくるのは“人の手”であり、それは情報や機械が氾濫している現代の中にあっても、これからも続いていくものだと痛感しました。最近は、便利に効率よく生活することに慣れ、時間をかけて何かしなくても済んでしまう中、“人間の本質”というものを思い出したような気がしました。本当の意味での“プロ”だなと思いました。私自身これからは、日常生活でも日々時間をかけて丁寧に物事に取り組むよう心がけたいと、よい反省となりました。

「かよう亭」「壽屋」でのおもてなしについては“一流”を強く感じました。金塚さん、福さんもそうですが、一流の方というのは、目に芯の通 った輝きがあり、おだやかな中にもその場の空気がピンと張るような雰囲気をもっている方ばかりです。それは、建物や空間にも言えること。また、プロの料理というのは、食べるという直接的な行為だけを目的としているのではなく、料理の盛りつけ、色、器など視覚的なことについても楽しみ、リラックスして心身ともに元気になるための時間をつくるということを知りました。日常生活で時間をつくるのは難しいですが、ゆっくりとお料理を楽しむことが増えれば日本人の心はもっと豊かになれるはず…。

この旅は、特派記者の方々ふくめ、人、もの、景色、さまざまな出会いが偶然ではなく、必然なのだと痛感した貴重な旅となりました。

■最高のおみやげ
木村雅也子(医師)

加賀の風土に恵まれた洗練の菓子、憧れの金塚先生、かねてより訪れたく思っていた宿、初めて出会える方々。この旅のもつ、「和菓子」「金塚先生」「かよう亭」「和樂」というキーワードにひかれ、ふくらむ期待をもって参加しました。うれしいことに抱いていた想いを大きく超える本当に楽しい2日間を過ごさせていただくことになりました。

和菓子は五感で味わうもの、といわれます。夕食後にいただいた「福文」の和菓子「水蛍」は、美味なだけでなく、その銘の響き、ゆかしく透ける美しさ、葛の食感、あんの黒砂糖のかすかなかほり、まさに五感を研ぎ澄ませての味わい。ご主人のお話からは、誠実で真摯なお人柄を感じさせる穏やかな口調の中にも、菓子に注がれる強い愛情と熱意を知りました。また、数種のあんを食べ比べてみる体験は、白小豆、えんどうあん、じょうよあんなど、初めてその特徴を実感。このような繊細な感覚で和菓子をいただくことはかつてなく、貴重な経験となりました。

一方、金塚先生は、本当におだやかでとてもナチュラルな方。お菓子談義はさすがと感心させられ、それでいて私たちの質問やお願いにも快く爽やかに応じてくださるし、失礼ながらちょっぴりとぼけた雰囲気もおありになって、今まで以上にすっかり大ファンになってしまいました。

「かよう亭」は、自然との調和というコンセプトが感じられるお宿。土地の食材、心まごませる器、華美というのではないおだやかなしつらえ、ご主人上口氏のおもてなしの心遣いがいかされており、ひとときの真の豊かさを与えていただきました。朝のお食事のうれしさも格別 でした。

このように今回の旅ではたくさんのおみやげをいただきました。その中でも最高のおみやげといえるのは、出会えた25名の方々。全国から参加された幅広い年齢の読者は、さすが『和樂』のお仲立、皆さん粒ぞろえの“おとな”ばかり。初めてなのに話は弾み、まるでなつかしい修学旅行のように夜遅くまで語りあいました。旅の後にも、知り合えた方から素敵なお便りが届き、上質の2日間の余韻を今も楽しむことができること、幸せに思っています。

※レポートは、できるだけ原文のまま掲載いたしておりますが、文字数の関係上、多少、割愛または補足させていただきました。


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「福文」の「水蛍」。ひとめ見てため息、味わってまたため息…。本当に絶品!

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「福文」のご主人、福貞雄さん。誠実でやさしいお人柄は、おつくりになる和菓子そ のもの。

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おふたりの和菓子への思いをじっくり聞くことのできた和菓子歓談。

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お土産は「福文」の「あじさい」(左)と「唐衣」(右)。

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「かよう亭」での夕食。見ためも美しいお料理に舌鼓。

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しっとりとお酒も楽しめる、「かよう亭」の「古今サロン」。

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「古今サロン」にはご主人の審美眼に適った数々の品が。

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歓談時、お話に出てきた数種類のあんを味わい、違いを体験する参加者。


「樂」メイン



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