今月の「節子の番菜覚」
 このページでは、和楽庵の姉妹サイト「散歩好きの京都~近頃京に流行るもの~」 http://sanpozuki.jp の好評連載「節子の番菜覚(ばんざいおぼえ)」から、12月28日から公開する「京のうす味~料理の基本「だし」は始末の出発点」の様子をご紹介しましょう。


質素で贅沢、京のうす味を生む「だし」づくり

京都の和食は、淡く、まろやかな味付けが基本だ。食べた瞬間、口に広がる昆布の旨みとかつお節の香り。そして、食材の味やコクが噛むほどにあいまっていくデリケートな味わい。京のうす味とは、素材そのものの味覚を十分に生かそうとしたゆえで、そこに雑味が混じれば、料理が台無しになってしまう。このうす味の一番大切な要素が「だし」だ。京都人の味覚の土台に、懐石料理から日々のお番菜までに通じたうす味の決め手がだしづくりである。たとえ味噌汁一杯であっても、しっかりひいただしで仕立てれば、心を和ませてくれるほどの美味しさが生まれる。そのような質素に見える一品であっても、実は味にうるさく、とても贅沢なのが京都の家庭料理の基本だろう。

「散歩好きの京都~近頃京に流行るもの~」の好評連載「節子の番菜覚(ばんざいおぼえ)」が12月28日に更新する最新記事のテーマは「京のうす味」。代々、杉本家の台所に立つものに受け継がれてきた京商家の「だし」に迫っている。乾物が充実している京都では、豊富なだし用の素材やその使い分けが毎日の食卓に受け継がれているのだという。詳しくは、だし用の素材解説から残った素材を再利用したレシピまで網羅した本編を見てもらうことにして、ここでは今回の概要をご紹介しながら、京風と呼ばれるうす味の入り口あたりまでについて解説しておこう。

京の食道、錦市場の乾物店。店先に山と積まれた数々の昆布にかつお節、だしじゃこ(いりこ)や椎茸などの乾物を前にすれば、さて、何を買い求めれば京の味が再現できるものか、と誰もが悩むはずだ。日本料理のだしは、大きく分けて二つあるといわれている。一つは、精進料理用の昆布と椎茸などのなまぐさものを使わないだしで、もう一つが昆布と節類などを合わせただしである。一般に用いられる和食のだしは後者だ。これは昆布とかつお節やだしじゃこを組み合わせて使い分けることが肝要で、最も淡く上品な一番だしを吸物などへ用い、旨みとコクが強まる二番だしやだしじゃこを加えただしは、お番菜の煮物などに広く使われている。

昆布には利尻昆布や真昆布、羅臼(らうす)昆布、日高昆布などが使われ、それぞれの風味やだしの色などが異なっている。京都では透き通って癖の少ない利尻昆布が広く使われている。また、節類にも鰹(かつお)や鮪(まぐろ)などの素材自体に多くの種類があり、血合いのあるなし、削った厚さに応じ、用途や調理法が変わる。京都では一般的に、かつお節の荒節(血合い入り)と枯節(血合い抜き)が合わせて使われていることが多いそうだ。さらに、だしじゃこを節類の代わりやその上に組み合わせれば、香りも旨みも強くなる。だしの骨格が昆布とすれば、組み合わせから生まれる肉付きよって多様にだしの風味が変化していくことになる。

本来だしづくりにはならいの中に、作る人、食する人の好みを多様にアレンジしていける楽しさがある。だが、日本固有の食文化から育ってきた料理の土台だけに奥が深い。さらに、うす味の仕上げには淡口醤油や味醂といった調味料が不可欠で、一朝一夕に自分好みを見つけられるものではない。今回の「節子の番菜覚」では、実際の杉本家流のだしのひき方や素材の使い分けから調味料まで詳しく解説しているので、これを手本に、まず京商家ならではのだしの世界に触れていただきたい。今回のだしづくりを体験することで、先月より掲載中の「だし巻き」をはじめ、これまで紹介してきた数々のお番菜の味が格段に美味しくなることは間違いない。

(協力/杉本節子氏 案内/丹治圭 写真/猪口公一)

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だしに使った昆布、かつお節、だしじゃこに椎茸を加えて作った佃煮。

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一番だしのレシピより。

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左手前から時計回りに、荒節薄切り、枯節薄切り、荒節厚切り。

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だしに使った素材を再利用して生か
すことも京都の台所のお決まり。

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