今月の「節子の番菜覚」
 このページでは、和楽庵の姉妹サイト「散歩好きの京都~近頃京に流行るもの~」 http://sanpozuki.jp の好評連載「節子の番菜覚(ばんざいおぼえ)」から、今回は「祇園祭」についてご紹介しましょう。


特別な思いを寄せる今年の祇園祭

ブロードバンドマガジン「散歩好きの京都」で連載を依頼するため、杉本節子さんを訪ねてからまもなく1年が経とうとしている。訪ねた杉本家は、簾戸(すど)や御簾(みす)ごしに庭の緑や座敷の連なりが涼やかな間を作り出し、夏室礼(しつらい)の風情が極まっていた。

杉本家はかつて1743年創業の呉服商「奈良屋」を営み、今はその大店を遺構として継承する家だ。現在節子さんは、奈良屋記念杉本家保存会の業務をこなし、会員の見学や取材の応対の合間に、庭に落ちた葉を拾い、草を摘み、季節が変われば建具を代えて室礼を整える。普段の仕事は、母の千代子さんと節子さん、妹の歌子さんの女性3人で切り盛りしている。

当初の私は杉本家独特の細目の格子を建て込んだ重厚な大戸口を、手足に力を入れてごろごろと引き開けながら、これがこの家の継承者に掛かかる重圧のように感じたことを憶えている。

持ちかけた連載企画の方は、節子さん自身の考えと通じる部分が多く、とんとん拍子に話が進んでいった。そして、打ち合わせやテスト撮影に、と足繁く通うことになった。慣れていくほどに、木戸の重みが薄れていくことを楽しんでいた私とは対照的に、杉本家にとってこの1年は重要な分岐点に差し掛かっていた。

昨年から今年にかけて行われたのは母屋での暮らしの大移動である。
杉本家には今も人が住み暮らす家としての価値が含まれる。しかし、普段の生活の中心となる居間が住宅内の一角を占拠しているということは、住宅の運営上の大きな障害となっていた。代わる別棟を建てるため、節子さんは忙しい家の仕事の合間を縫い、まったく別の仕事を引き受けることもしばしばあった。かなりご無理をされているように見受けられたが、これは東京での食の修行を断ち切り、杉本家の運営に専念するために戻った節子さんの十数年をかけた大きな目標のひとつであった。

この念願が叶い、敷地内の裏側にプライベートな離れ家が完成したのは今年に入ってからのこと。今春にはほぼすべての生活の場が裏の新居へ移った。これで杉本家住宅の1階部分すべてを公開できる準備が初めて整ったのである。

そして、まもなく迎えるのは祇園祭である。杉本家の晴れの日である7月14日からの三日間は、店の間が伯牙山のお飾り場であると共に、住宅内で屏風祭を開いて一般公開する。今年は特別な思いを込めたお披露目であるはずだ。祇園祭を訪ねる予定があるならば、台所の公開も行われる杉本家にぜひ足を運んでいただきたい。

散歩好きの京都の連載「節子の番菜覚」では、この晴れの日に合わせて7月1日より祇園祭の杉本家に伝わる「晴れの日の料理・おすし」を掲載する。祇園祭といえば、鱧(はも)すしを思い浮かべるだろう。けれども、京都の家庭料理でお祭りとなれば、なんといっても「鯖(さば)ずし」が常式である。家庭ごとに守り伝えられたそれぞれの味がある。

例年の祇園祭よりも一層晴れやかな節子さんの思いを載せて作られた鯖ずし。そんな祇園祭ならではの京都の手作りの味を、こちらはWEBにあるレシピを片手に、読者の家々で手作りし、味わっていただきたいものである。

○祇園祭期間中の杉本家特別一般公開について
7月14~16日は特別一般公開。14日は午後4時~午後9時、15・16日は午前10時~午後9時30分まで公開する。
参観料は1500円。
問い合わせ:財団法人 奈良屋記念杉本家保存会
住所:京都市下京区綾小路通新町西入ル矢田町116番地


(協力/杉本節子氏 案内/丹治圭 写真/内海弘嗣)

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人の出入りの痕跡を残した重厚な大戸口は、杉本家の入るための最初の木戸だ。店の間へと続く。

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玄関より一間幅の廊下より続く、夏室礼の八畳の間(控えの間)。

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簾戸ごしに覗く前裁。

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建具替えの様子。初夏には蔵から簾戸を出し、襖や障子と替え、夏を迎える。

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祇園祭を迎える杉本家の料理は、鯖ずし、じゅんさいとしんじょうのすまし汁と赤飯。

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