秋刀魚に鯖、松茸、栗
山海の旬を盛り込んだ日常の食卓
10月1日に更新するWEBサイト「散歩好きの京都『節子の番菜覚』連載第6回」は、今回より秋へと季節が移る。
杉本節子さんがいつも食材を調達している錦市場。京の台所と呼ばれる錦通りの店先は、10月が近くなるとにわかに賑やかになる。丸々とした加茂茄子や浅瓜、緑色のとうがらしといった涼しげな夏野菜が影を潜め、南瓜、大根、人参、茸や栗と、山の幸までが入った天然色の秋の彩りに溢れ始める。野菜ばかりでなく、魚屋もまた秋の色合いを強め、秋刀魚(さんま)、鯖(さば)、鯵(あじ)、鰯(いわし)やうるめと、冬に向けて背の青い魚が続々と旬を迎える。こうした大衆魚の青魚のことを、京都では「下司魚」(げすうお)と称していたそうだ。
旬の生魚がどこでも手に入る現代になっても、やはり京都の魚屋に欠かせないのは、ひと塩を当てた「ひと塩もの」や中開きにした中干の魚だ。その代表が鯖だろう。錦市場で尋ねてみると、「秋の鯖は目が白っぽく曇るぐらい、脂肪が入ったもの」がぐんとまろやかで美味しいそうだ。もっとも京都の鯖は平安京時代に地方から都へ送られた作物の一つで、祭礼に欠かせない鯖ずしを始め、連綿と食されてきた食べ物である。福井県の若狭でとれた鯖は、塩を振って夜通し運ばれ、京都に着く時に絶好の食べ頃になっていたという。そんな若狭からの道「鯖街道」を通る塩鯖は、現代では銘柄の一つに数えられる。ちなみに江戸時代頃の鯖は、これも生食ではなく、塩鯖を刺身にした「刺鯖」(さしさば)が好まれたそうだ。
10月頃に最も脂がのってくる秋刀魚もまた、京都では中開きにしたひと塩ものを好む人が多いようで、食べ方の好みには鯖の影響も少なからずあるのだろう。近年まで京都で秋刀魚は「さいら」と呼んでいたそうだが、北海道や東北が最も良い漁場である秋刀魚は、海が遠く、良質の漁場から遠い京都では、東側とは違う食べ方を好んだのかもしれない。
錦市場で旬に入った青魚やまったけ(松茸)などを買い付けた節子さん。「節子の番菜覚」の秋の始まりは旬を迎える背の青い魚をメインに、魚の付け合わせとしてもちょうど良い、まったけ(松茸)や栗を用いたお番菜を紹介する。
魚はひと塩ものの秋刀魚と鯖を使い、秋刀魚はそのまま焼き上げ、鯖は酢で締めてそのまま「きずし」とした。「秋鯖嫁に食わすな」という諺もあるけれど、秋の鯖は独特の癖がまろやかになって旨味が増す。江戸期の創業時からの杉本家の用事を事細かに記録した「歳中覚」(さいちゅうおぼえ)には、残念ながら秋にどんな魚をどのように調理していたのかというところまでの記述がない。けれども、江戸期に一般的な食べ方として「刺鯖」が楽しまれていたことを照らすと、きっと京商家の秋の食卓にはこのような「きずし」も並んでいたのではないだろうか、などと想像が膨らませていただくのも良いだろう。また、レシピ付きで紹介するお番菜には、柚子を利かせて松茸の芳香とともにさっぱりと味わう「まったけとほうれん草のあえもの」。淡い甘さに炊いた「栗の甘煮」は、丹波栗が出回り始める頃から食卓に並ぶ、京都の定番メニューである。
魚の脂をじゅんじゅんと落として焼き上げ、柚子やかぼすをぎゅっと絞っていただく「さいらのやいたん」。秋刀魚を焼きながら香ばしく立ち上る煙が台所の高い天井、火袋(ひぶくろ)に吸い込まれていく様子は、ずっと昔から繰り返し続いてきた台所の光景を彷彿させる。まして今回の節子さんは普段着代わりの木綿の絣に祖母譲りの割烹着という姿で調理に立った。「着物を日常着としてもっと着こなしていきたいですね」と話す節子さん。町家の台所に似つかわしい着物姿の風情ある様子も、今後機会あるごとに掲載していく予定なのでお楽しみに。
(協力/杉本節子氏 案内/丹治圭 写真/内海弘嗣)
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