酒粕を焙ったおやつ、それに粕汁の2月
節分とは季節の変わり目を意味するが、2月の京都は一段と底冷えが厳しい。それでも節分の日となれば、京都の追儺(ついな、鬼やらい)式の代表である廬山寺(ろざんじ)の鬼法楽や狂言が行われる壬生寺、節分祭が有名な吉田神社などと、方々が人でごった返す。芸能を楽しんだ後は、撒く豆に右往左往。また、訪ねた場所ごとの豆の食べ方など、独特の習わしを体験する楽しさもある。例えば、廬山寺・鬼法楽に用いる蓬莱豆は、大豆の表面に砂糖を絡めた紅白の豆で、紅白を一粒ずつ食べると寿命が延びる御利益を得られるそうだ。また、西陣の釘抜き地蔵では、数え年の数だけ豆を寺院に供えると、厄払いになると言い伝えられている。
このように節分行事が芸能化したのは室町期以降のことというから、杉本家初代が住み暮らした京都の江戸時代にも、今と変わらない節分行事が繰り広げられていたことだろう。地方によって多くの風習が残る節分を、皆さんはどのように過ごしておられるだろうか。2月1日に更新する「散歩好きの京都~近頃京に流行るもの~」の連載「節子の番菜覚(ばんざいおぼえ)」は、2月の節分と初午を過ごす旧商家の暮らしをお届けする。
杉本節子さんに節分の思い出を尋ねてみると、「食後の豆まきはもちろんだけれど」と付け加え、酒粕の思い出を教えてくれた。いつも2月になると、親戚の造り酒屋から寒仕込みの酒とその酒粕が届いたという。この酒粕を火鉢でこんがりと焙り、黒砂糖にまぶしたおやつが子どもの頃からの好物であるそうだ。そして、節分の夕食には、焼きたての旬のまいわしに畑菜のごま合え、粕汁と麦ご飯がお決まりの献立であった。京都では冬になると、どの家もその家なりに工夫した粕汁を作る。「節子の番菜覚」では杉本家流の粕汁を詳しいレシピと共に紹介しているので、京都の旧家の粕汁で寒い冬に暖まっていただきたい。
粕汁作りを撮影した杉本家の「おくどさん」のすぐ脇の衝立には、荒神棚(かまどのそばで荒神を祀る棚)が設けてある。そこにはいつも布袋さん、弁天さん、お猿さんと、杉本家の皆さんが大切にしておられるお人形さんが飾ってある。今回の2月をテーマにした取材でこれらの人形の意味を初めて知った。
これらの人形は日本の土人形の源流にもなったといわれる伏見人形という種類のもので、かつては伏見稲荷大社の参道やその付近には、伏見人形を売る店が軒を連ねていたそうだ。京都では初午の日に伏見稲荷大社へ詣でる人たちが多く、詣るついでに買い求め、古い町家では、台所に伏見人形をずらっと並べているところも少なくないそうだ。
門徒である杉本家では神様はお祀りしない習わしなので、おくどさんにある火の神・荒神はとても貴重な存在なのだろう。「台所になくてはならない存在」と節子さんは話し、なんでもお猿さんの伏見人形は江戸期の名工の作なのだという。「節子の番菜覚」にて、初午にちなんだこれらの伏見人形についても写真を掲載し、詳しく解説している。
(協力/杉本節子氏 案内/丹治圭 写真/内海弘嗣)
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