豪壮華麗な杉本家の雛祭りと祝いの料理
毎年4月3日(旧暦3月3日)は、杉本家の雛祭りの日。杉本家に保存されるいくつかの雛人形や代々の市松(いちま)人形が、座敷の各所に、所狭しと幸せそうな顔を揃える。「まだまだ底冷えがする3月。京都では桜の便りと一緒に雛の節句がやってくる印象です」とは杉本節子さん。雛祭りの日の杉本家は、本座敷には祖々母の嫁入りの際、明治23年に誂えた内裏(だいり)雛が宮中の内裏を模した豪奢な御殿に設えられる。雛人形は京都・中京区の有職人形司、丸平大木人形店(まるへいおおきにんぎょうてん)に注文したものである。雛人形の背後に屏風ではなく、御殿を用いるのは京阪地方独特のあり方で、寝殿造りの御殿に御簾を垂らすなど、豪壮な飾り付けになっている。
また、男雛や女雛をご覧になり、見慣れた雛壇と異なる点にお気づきだろうか。京都では男雛は向かって右手にあり、女雛は向かって左手に坐(いま)す。これは陰陽(おんみょう)思想に基づく制により、現在の雛飾りとは逆に配置した伝統的な京都の飾り付けである。雛壇には、右近衛(右大臣)や左近衛(左大臣)、犬の珍を曳く女官と共に、古式ゆかしい立雛(たちびな)、節子さんのものをはじめとする代々の市松人形などが飾り付けられている。ちなみに、杉本家で雛を誂えたのは祖々母の代までとのこと。それだけに節子さんの代になってからの立雛と市松人形は、特別
に愛らしい存在のようだ。
これだけではなく、八畳間の座敷には、節子さんの母のご実家である伏見の醸造元の縁による享保(きょうほう)雛が飾り付けられる。享保雛は美術的に優れたものが多いといわれる雛人形である。さらに、床の間、飾り棚などにも対の雛飾りが設けられ、所蔵の最古の雛は文政8年(1825年)、杉本家で誂(あつら)えた伝世品があるそうだ。毎年必ず飾り付けられるわけではないようだが、雛祭りが盛んになったのは江戸期以降のことであり、杉本家の雛祭りは、まさに日本の伝統雛が一堂に会したような、そんな厳かで賑やかな様子を見せている。
華麗な杉本家の雛祭りを祝うお決まりの料理は、ちらし寿司、赤貝と分葱(わけぎ)のぬた、蛤(はまぐり)のおつゆ、蜆(しじみ)のしぐれ煮、笹鰈(かれい)の干物という献立。軟らかく独特の香りを楽しむ分葱と赤貝のぬたを始め、庭の蓬(よもぎ)を摘んで作ったひちぎり餅など、春の香りいっぱいだ。3月1日より公開する「散歩好きの京都~近ごろ京に流行るもの」の連載「節子の番菜覚」(http://sanpozuki.jp)では、これらのレシピと共に、新暦の暦に合わせて一足早く杉本家の雛祭りや節句を祝う食事の様子をお届けする。
(協力/杉本節子氏 案内/丹治圭 写真/内海弘嗣)
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