静かに色付き出す庭の花々と春のおばんざい
杉本家の家人が思い思いに手を入れて楽しむ庭(写真・上から3枚目)。この庭は、座敷に望む前栽(せんざい)や仏間の脇の坪庭などの完成された美しさとは異なり、前栽の裏側にひっそりとある。ここは昭和の初めに蔵を取り壊した際に作られた内々の庭で、小さな池にはずいぶん成長した金魚が伸び伸びと泳いでいたり、ヨモギや木の芽を摘んで料理に季節の味わいを提供する菜園のようでもある。立春のころ、まず彩りを感じさせていたのは白椿だったろうか。赤や薄紅色の椿が次々に咲き、ぼそりと花のままに落花していく傍らで、水仙や沈丁花(じんちょうげ)、チューリップなどが花を咲かせ、訪れるたびに彩りが増していく。しっとりと静かに春の気配が近づいてくるようで、とても心地のよい庭である。杉本節子さんにとっては、草木を愛おしんで手入れを欠かさなかった、祖母の姿を思い出す場所のようだ。
4月1日更新する「散歩好きの京都~近頃京に流行るもの~」の連載「節子の番菜覚(ばんざいおぼえ)」では、桜に賑わう京都の春を、自宅の庭に咲く花々を愛でながら静かに春の日和を楽しむ杉本家の町家暮らしの様子をお届けする。そして、春到来を実感させるのは、やはり旬の食材が揃った食卓のお番菜(ばんざい)である。
京都の料理で春の到来を告げる食材といえば、なんといっても筍(たけのこ)だろう。京都の西山付近は、柔らかくて淡泊な味わいの白子(しらこ)という銘柄に代表される上質な筍の産地だ。4月に入ったころからは、高級料亭のメニューから地元の八百屋さんの店先までに朝堀りの筍が欠かせない。えぐ味が少ない採り立てのうちに糠水(ぬかみず)であく抜きすれば、いかように調理をしても、旨味が凝縮したみずみずしい身を、ぷりぷりと弾けるような歯ごたえでいただくことができる。節子の番菜覚での筍料理はたっぷりのだし汁で炊き、筍そのままの風味を楽しむことができる直煮をメインに、筍ご飯や木の実合えを紹介している。
広く春のお番菜に触れている今回。京都では馴染み深い生節(なまぶし)料理を紹介している。5月ごろの初鰹(はつがつお)はよく知られているが、生節とは、関東方面では「なまりぶし」と読んだ方が通りがよいかもしれない。2枚におろした鰹を煮て冷まし、軽く焙りながら乾燥させた鰹をこのように呼ぶ。生節は水気を半分程度飛ばした半生状態の鰹節という感じで、これはだし用ではなく、煮付けたりして食べる。鰹の風味はそのままにずっとあっさりとしていて、ほくほくとした食感がある。新鮮な魚が身近になった今でも、京都ではずっと春から夏の食材として用いられ続けている。生節と蕗(ふき)、焼き豆腐を炊いたんに、豆ご飯と蕗じゃこを添えた春らしい食欲をそそる一膳。青い香りも、ほのかな苦みも楽しみながら、春味を満喫する杉本家のお番菜をぜひ楽しんでいただきたい。
(協力/杉本節子氏 案内/丹治圭 写真/内海弘嗣)
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