ほかさず、始末。京都の台所の知恵
江戸期寛保3年創業の呉服商「奈良屋」を営んだ杉本家。昨年の春より、杉本家に残る京商家の年中用事をまとめた「歳中覚」(さいちゅうおぼえ)を紐解きながら、京のお番菜の源流にある商家の食の記憶を辿る連載「節子の番菜覚」が始まった。
かつて「フランス料理の料理人を目指していた」という次代の当主、杉本節子さんに調理を頼み、商家を営んでいた頃の食を再現する、というこの一年を通した食の記録は、旬を美味しく食べること。そして、暖簾を守ることを何よりも大切に考えた、京商家の魂みたいなものが現れていた。料理は最も手に入りやすい旬の食材を使い、日々を質素に過ごしたお番菜の数々。京茄子の泥亀煮(どんがめに)にかぶら蒸しなどなど。そして祇園祭や創業記念日といった「ハレ」の日の食。鯖ずしや鱧料理。鱧も江戸期には今のような高級魚とはほど遠い存在だったそうで、ハレとはいえ、決して贅沢すぎるようなことはなかった。
連載からそろそろ一年が経つという頃、節子さんが歳中覚と似た数冊の古文書を蔵から大事そうに持ってきた。この「定例書」(ていれいしょ)などの文書は、呉服商時代に支店の管理などのために杉本家三代目の新左衛門秀明さんが書き記した家訓や店の規則をまとめたもので、今でいうなら店舗管理マニュアルみたいなものだろう。驚いたことに、そこには商家の食事に対する考え方まで記されている。
定例書にはこのようなことが書いてある。
「色々料理を好むは不養生の第一、
不幸不忠も是より始まり、
まさには賤しきさもしき恥ずかしき事に存じ候」
杉本さんによれば、この言葉が表す姿勢こそ、京商家に伝わる「始末の文化」なのだという。京都では捨てることを「ほかす」、捨てずに使い回すことを「始末」という。贅沢や派手を謹んで、質素倹約に努める。それが暖簾を守り、商家を繁盛させ、子孫繁栄をもたらすと。
話は変わるが、節子さんの母上が毎年恒例の御香香(おこうこ)を漬ける時に居合わせた。100本近い大根を漬け物樽に入れながら、大根一段分に対し、塩、麹、柿(もしくは砂糖)の順で入れ、どんどん積み重ねていく。漬けた後は、発酵の加減を見ながらの甘さの調整が難しいそうで、2ヶ月後ぐらいしたら徐々に食べれるようになり、この漬け物が1年以上に渡って杉本家の食卓にのぼる。
実はこの御香香が「節子の番菜覚」の2年目を象徴する食材になる。漬けて半年もして、食べられないほど塩辛くなってきた御香香を「ほかさず」に美味しく食べるという、第2シリーズはそんな台所の知恵が生んだ京都の始末の料理から始まる。5月2日に更新する「散歩好きの京都~近頃京に流行るもの~」の連載「節子の番菜覚(ばんざいおぼえ)」をぜひお楽しみ頂きたい。
(協力/杉本節子氏 案内/丹治圭 写真/内海弘嗣)
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