今月の「節子の番菜覚」
 このページでは、和楽庵の姉妹サイト「散歩好きの京都~近頃京に流行るもの~」 http://sanpozuki.jp の好評連載「節子の番菜覚(ばんざいおぼえ)」から、始末のお番菜をテーマに新たにスタートした第2シリーズの様子をご紹介しましょう。




お番菜の基本は「始末」の心

「もったいない」と京都の人はよく口にする。巷に無駄をなくす暮らしぶりが根付いていて、西陣の織屋の知り合いの奥様も、生地の端切れでちょいちょいと見事な巾着やマスコット人形などを簡単に作ってしまう。「凄い」と感心していると、母親譲りの「当たり前のこと」と笑い流す。京都を歩いているとこんなことに結構出くわすもので、豆腐の残り滓をワックス代わりに床を磨いていたり、料理でも、有名な「鱧胡」(はもきゅう)などのように鱧の剥いだ皮を生かしてみたり、不要な食材を無駄にしない調理法が定着している。今の時代、ちょっとした「目から鱗」の知恵が暮らしの中にきっちりと根を下ろしている。

京都で当たり前の「もったいない」という気持ちは、京商家や西陣織の織元などの節制した暮らしぶりが礎になっているそうだ。家訓のひとつとして、毎日の生活からあらゆる無駄 をなくすことを美徳とし、毎日の暮らし方を徹底して見詰めることで、暖簾を長く守り続けてきた京都の暮らし。そのような知恵の蓄積を「始末の文化と呼んでいます」と杉本節子さんは話す。なかでも、京の台所で伝えられてきた「始末する」知恵は数え切れないほどあり、日々食べているお番菜そのものが「始末の文化」を基本にしているという。野菜などの食材を隅から隅まで使い切る献立から出汁を無駄にしない使い方まで、代々、家の奥の台所で踏襲されてきた暮らし方なのだ。

「始末」とは捨てることではなく、「始まりと終わり」を示す言葉だ。京の台所の始末には、食材を捨てずに使い切り、その上で四季の味わいを添えながら美味しく作って食し、しかも食べる人を飽きさせない工夫がある。2年目を迎えた「散歩好きの京都~近頃京に流行るもの~」の好評連載「節子の番菜覚(ばんざいおぼえ)」は第2シリーズへと移り、京の台所へさらに一歩踏み込んで「始末する」という心から始まるお番菜作りを取り上げていく。お番菜の無駄なく、美味しく調理する京都流のレシピというばかりでなく、使い方がわからないような京都ならではの食材を家庭で気軽に試すためのコツも見逃せないところである。

6月1日に更新する「節子の番菜覚」の題材は「乾物」。梅雨入り前のこの時期、使い残した乾物を湿気させないためにも使い切ってしまうのが京の台所の当たり前である。湯葉(ゆば)や干し椎茸、干瓢(かんぴょう)、麩、ひじき、あらめなどと、とかく京都には乾物の食材が多い。なかでも、湯葉はちょっとした品選びの知識と調理次第で、割安に美味しく京都の味が楽しめる食材だ。上質の湯葉を引いた後の残りの部分である「甘湯葉」(あまゆば)や「樋湯葉」(といゆば)といった湯葉の種類をご存じだろうか。今回紹介している「甘湯葉とかしわつくねの煮あわせ」や「干し椎茸ときゅうりの胡麻酢和え」、酒の肴にちょうどよい「樋湯葉や干瓢の素揚げ」など、湯葉をはじめとする乾物の京都らしい気取らない楽しみ方は必見である。また、湯葉には湯葉専門店でなければ手に入らないような種類もあるので、今回のレシピを参考に、京都観光の折には、専門店を訪ねて珍しい湯葉を買い求め、京都流の食べ方を試していただきたいものだ

(協力/杉本節子氏 案内/丹治圭 写真/内海弘嗣)

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樋(ひ)湯葉と干瓢(かんぴょう)の素揚げ。家庭で馴染み深い「おつまみ」のひとつ。
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京都でお馴染みの乾物のひとつ、湯葉。たくさんの種類があり、味わいや食べ方がそれぞれ異なる。

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杉本家では梅雨入り前の時期に納戸を
片付けるのが習慣。

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甘湯葉を10分ほど水につけて戻す。豆乳の味わいがぎゅっと詰まった濃厚な湯葉だ。
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甘湯葉とかしわつくねを炊きあげているところ。

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