秋の気配を運んでくる京のずいき
「芋汁、芋名月、芋の露と芋の季語が揃えば心は秋。食欲を誘う秋の旬の味覚もまた芋である。この日本全国お馴染みの味覚は京都も例外ではなく、錦市場の八百屋さんで酷暑の終わりを真っ先に告げるのが里芋だろう。新物の里芋の、さらに走りとして市場に並ぶのが、丈が1メートル近くもあろうかという赤黒い茎をシュッと伸ばした「ずいき(芋茎)」だ。ずいきとは里芋の茎のことで、赤い茎の部分を酢の物や煮物にする。夏の残り香のような微かな苦みに、出汁や酢味噌の和え味を吸い込んだ瑞々しく淡泊な風味が特徴の野菜で、秋への端境に食すにはぴったりの味なのだ。
9月15日に更新した「散歩好きの京都~近頃京に流行るもの~」http://sanpozuki.jpの連載「節子の番菜覚(ばんざいおぼえ)」でお届けする初秋のお番菜の主役はずいき。これに旬を迎えた里芋、京都らしいはもの子といった初秋を感じさせる食材をふんだんに使い、月見酒の肴にも似つかわしいお番菜の作り方を紹介している。このページでは、主役のずいきという食材に触れてみよう。
里芋は「八つ頭」と呼ぶ親芋の周りにたくさん実った小芋であるが、この里芋の葉や茎をご存じだろうか。南洋の植物を思わせるような濃い緑の大振りな葉と、葉を力強く支える太い茎。この赤黒い皮肌の茎をずいき、あるいは赤ずいきという。ちなみに、茎部分が赤ずいきよりも柔らかいハス芋の青い茎は青ずいきと呼ばれている。太く赤黒いずいきの茎は見た目こそ逞しいが、中身はといえば思いもしないようなスコスコとしたスポンジ状の繊維層でできている。出汁で炊くと、しゃりっとした皮肌部分と煮汁を十分に吸い込んだ茎中の柔らかな繊維層が瑞々しく、絶妙な歯ごたえを作り出す。ずいきの味は、葉と芋の中間を味わうような素朴さと繊細さを兼ね備えた妙趣に富んだ食感と風味なのだ。
以前は日常の食材として日本中どこでも手に入ったそうだが、最近はなかなかお目にかかれなくなってきたのがなんとも残念なこと。今も夏の終わり頃から豊富に売られている京都では、昆布と鰹の出汁で炊き、とろみを付けて吸物にしたり、酢味噌で和えたりするのが定番メニューになっている。酢を使って色味を美しいまま仕上げたり、強いえぐみを出さないコツ、だしじゃこと炊いてみたりと、家庭ごとに工夫した様々な作り方や食べ方がある。杉本家流の調理のツボは「節子の番菜覚」の掲載ページで確認して欲しい。
さて、ずいきという野菜らしからぬ韻の源は、禅風だけでなく、文芸にも秀でた臨済宗夢窓派の祖、夢窓国師の詠歌「いもの葉に置く白露のたまらぬはこれや『随喜』の涙なるらん」から発したといわれている。「随喜の涙」には「心からありがたく思って流す涙」という意味があり、そんなありがたい語源を持つずいきは神事などにも使われている。京都・北野天満宮でまもなく10月1日から行われる瑞饋(ずいき)祭では、還幸の列を飾る瑞饋神輿(みこし)は屋根をずいきでふき、五穀豊穣の祈願の象徴となる。京都にとってずいきは、神事から家庭の食にと、なにごとにも重宝がられて変わることのない初秋の恵みなのである。
(協力/杉本節子氏 案内/丹治圭 写真/猪口公一)
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