今月の「節子の番菜覚」
このページでは、和楽庵の姉妹サイト「散歩好きの京都~近頃京に流行るもの~」 http://sanpozuki.jp の好評連載「節子の番菜覚(ばんざいおぼえ)」から、現在公開中の「小かぶを葉までまるごと食す~旬を食す始末の料理」の様子をご紹介しましょう。


小かぶで温もる、京商家の秋

杉本家のような京商家の台所には、代々受け継がれてきた「節約」の精神みたいなものが根底に流れていて、「節子の番菜覚」の撮影中は、折に触れて「なるほど」と関心することになる。だしに使った素材を佃煮にしてみたり、数年物の古漬けがお番菜になって食膳の主役を飾ったり。でも、現代でそれはきゅうきゅうと食い詰めるような世知辛いものではなく、とても贅沢に感じられる。日々の食生活で何をどのように食べると値頃で無駄なく美味しいのか、ということが、台所の知慮分別として自然に培われていることなのだと思う。

そんな台所精神の基本は、野菜を主役にした料理が典型といえる。日常のお番菜から京料理に至るまで、京都が野菜を本当に美味しく食べられる土地柄であることはいうまでもない。夏になろうという頃から京野菜が続々と収穫され始め、夏に美味しい果菜や豆類に続き、葉菜、根菜、きのこ類と、季節を追いながら多くの野菜を引き立たせた料理が食膳の主役を飾る。秋になり、肌寒さを感じ始めた頃、根菜類を昆布のだしで炊いた海藻系の上品な香りがお椀から立ち上ると、しみじみと「日本人に生まれて良かった」などと心が満たされるのは毎年のことである。

京都の味を知らずに育った筆者は、野菜の美味しい食べ方がこんなにたくさんあることを京都にきて始めて知った。菜っ葉をひとつとっても、大根菜、白菜(しろな)、白さい菜、つまみ菜などと種類が多く、だしも、日々の料理は片口鰯の煮干し、上等な料理なら鰹節と使い分ける。食べ方に相応しい素材と風味が食べることを一層楽しくしてくれる。まして旬の食材は手に入りやすくて廉価、その上、普通なら捨ててしまう根菜の葉をどのように調理するかまでが、台所を任された人の腕前ひとつで色々な料理に仕上げられるのは興味深いものだ。

さて、秋本番を迎えた京都の野菜事情は、というと、秋蒔きの小かぶが出回り始め、10月から年の瀬にかけてはかぶが旬になる。京都のかぶは、かぶら蒸しや千枚漬けに使われる聖護院かぶ、葉ごと冬漬けにして乳酸発酵させるすぐき菜もあり、形や調理、食べ方も豊富だ。「散歩好きの京都~近頃京に流行るもの~」の好評連載「節子の番菜覚(ばんざいおぼえ)」で現在公開中の最新版は、このかぶの季節の到来を告げる小かぶの料理を紹介している。

事前に小かぶ料理の中身を相談した折、節子さんは今回の調理のテーマを「小かぶをまるごと食すこと」と話していたが、実際に捨てる部位は根の表皮ぐらいで、まさにかぶをまるごと食べ尽くす献立に仕上がった。小かぶの根の部分は秋鮭の煮合わせ、小かぶの葉はお揚げと炊きあげた。大切りにした小かぶはとてもだしに馴染みやすく、ほっこりと柔らかい炊きあがりには素材特有の深みもある。味見では調理していた節子さん自身も「かぶてこんなに美味しいもんやったかしら」との一言。旬の小かぶを、美味しく、無駄なく頂くレシピとコツを掲載しているのでぜひご覧頂きたい。

今回の撮影中、かぶ料理の調理が進む傍らで節子さんの母・千代子さんと昔話に花が咲いた。「以前は当主や長男などの男さんの食事とは違い、私らはだし用のおじゃこも一緒に頂いたものです」などと、商家の台所ならではの話題が随所に聞かれた。この時、だしのひき方、また、残材の食べ方にまでルールがある「京商家のだし作り」に興味が膨らみ、次なる連載テーマは「杉本家のだし」に決定した。次回は京のうす味が極まる「だし巻き」、次々回は京商家が受け継いできた料理の決め手であるだし作りやそのだし用素材を流用した始末の調理法まで取り上げていく予定なので、今後の「節子の番菜覚」の展開にもぜひご期待を

(協力/杉本節子氏 案内/丹治圭 写真/猪口公一)

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お揚げと小かぶの菜っ葉を炊いたお番菜。とても厚めのお揚げは京都の豆腐店でよく見られるもの。


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小かぶの菜っ葉とお揚げを昆布と煮干しのだしで煮ているところ。


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小かぶと秋鮭の煮合わせには、だしや魚の旨みを吸い込むきのこ類が良く合う。


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お番菜のだしの基本、煮干しは「だしじゃこ」とも呼ばれている。

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